平成17年度 (社)日本歯科先端技術研究所 市民公開講座・学術講演会 報告

昨年度より口腔ケア市民公開講座を開催していますが、会員の先生方からは「日先研がなぜ口腔ケア?」という質問があります。

本社団法人は故山根 稔夫初代会長が私財を投じ、口腔インプラントを中心とした歯科先端技術の開発および教育普及を目的とし、さらに「国民の医療と福祉の向上」を主旨として、昭和62年に厚生労働大臣より認可・設立されました。

近年、口腔インプラントは多くの歯科医の臨床に取り入れられ、また高齢者・有病者にも用いられて、その適応症も広がり、多くの患者さんが「咬める喜び」を享受しています。今後、高齢化社会を迎える日本において、口腔インプラントは高齢者のQuality of Life に大いに貢献することは明らかであり、広義の口腔ケアを行うことは全身的健康の維持に寄与します。また、インプラントを施術された患者さんの高齢化に、我々、口腔インプラント医は対処していく必要性も存在します。口腔インプラント学の研究団体として、また公益法人の任を果たすために、市民公開講座の開催に至りました。会員の先生方におかれましては、その開催趣旨へのさらなるご理解を賜りたくお願い申し上げます。

第2回市民公開講座は午後の学術大会と併催し、6月26日に日本歯科大学富士見ホールにて、「食べる」「話す」「笑う」を考える〜歯科と高齢者のQOLとのかかわりとは?〜というテーマで厚生労働省・日本歯科医師会の御後援の下、開催いたしました。

当日は晴天にも恵まれ、約400名の皆様にご来場いただき、来賓として井堂孝純日本歯科医師会長もおみえになり、ご挨拶を賜りました。講演は、米山 武義先生、水前寺 清子氏(ケアハウス水清庵施設長)、今井 幸充先生(日本社会事業大学大学院教授)、井出 吉信先生(東京歯科大学教授)、山根進先生(本会会長)にて行われました。

今回は、一般の皆様にもわかりやすいように、講演題を明確なキーワードにいたしました。我々は、日常でも「奥歯をぐっと噛みしめて悲しみをこらえた」「緊張して口の中がカラカラになった」「唇をぐっと咬みしめて怒りをこらえた」「どうしてあんなに牙をむくのかな?」「あんなに大きな口で笑って幸せそうだね」などの表現を用います。もちろん、動物のように咬みつくヒトはいませんが、口腔は物を食べるだけでなく、感情表現やコミュニケーションをつかさどる器官の一部です。また、ブラキシズムが大脳皮質のストレスの代償行為であることも解明されています。

近年、日本の歯科医療は、昭和30年代より急増した虫歯の治療を主体として行われてきました。その時代にそれが果たした役割は大きく、虫歯予防も徹底されると同時にその効果も上がり、児童のう蝕罹患率も低下しました。また、歯科医学の発達と同時に、全身的・精神的な健康と口腔の関わり、全身疾患と口腔内疾患との病因関係など多くの重要なことが解明されてきました。義歯や口腔インプラントを利用した口腔機能再建術も大きく進歩し、多くの人々が「食べる」「笑う」「話す」喜びを享受しています。しかしながら、未だ、歯科医療は「口腔」ではなく「歯」を主体とした医療としての社会的な認知をされているのが現状です。国民の健康生活に大きく関与する社会保険制度も「口腔」を主体とした医療を考慮したとは言い難いところがあります。

現在、長寿社会を迎え、高齢の皆様への制度整備も進み、以前より手厚い介護が行われるようになりました。「介護」において高齢者の皆様が寿命のみならず、より大きな「生きる喜び」を感じながら暮らしていただくことが重要です。 口腔ケアおよび口腔を主体とした歯科医療は、病状の軽減だけでなく、「食べる」「話す」「笑う」という本来「味わうべき喜び」の回復へ寄与することができます。今後、我々は国民から「歯科医」のみならず、「口腔科医」としての働きを求められるのではないでしょうか? 今回は前述のような観点に立ち委員会にて講演題、講演者へのご依頼を検討いたしました。

開催当日には読売新聞都内版においても記事として掲載されました。今回、日先研関東地区会、日本歯科医師会、独立行政法人医療福祉機構、東京医科歯科大学、東京歯科大学、日本大学歯学部・松戸歯学部、昭和大学、東京医科大学、聖マリアンナ医科大学、東邦大学医学部、都内近郊の歯科衛生士専門学校・看護専門学校、朝霞台中央病院をはじめとして、病院関係、(社)東京都理学療法士会、都内社会福祉協議会、保健センター、保健師会等の医療・介護関係の多くの団体が掲載記事や学内掲示、ホームページ上にて紹介をしてくださり、ご理解を賜ると同時に、限られた予算の中での広報活動に大きな協力をしてくださいました。最後にこの場をお借りして、本開催の趣旨へご理解を賜り、ご協力いただいた先生方、関係諸機関および関係各社へ厚く御礼申し上げます。

(文責 専務理事 簗瀬武史)