これは唇を噛んだりすることで、唇の粘膜の下に存在する小唾液腺が傷ついてできる病変です。この病変はちょうど水風船のような形をしており、薄い粘膜でできた球形の嚢胞壁の中に粘液が貯留しています。袋の粘膜は非常に薄いため破れやすく、破れた後は粘液が流出して平坦となるため一見治癒したように思われがちですが、またすぐに膨らんできます。それは袋がなお存在するため、袋で産生される粘液がまた風船内に貯留してくるのです。根本的には手術をして嚢胞壁(水風船ではゴム膜に相当)を摘出することが必要です。
口底に生じた粘液貯留嚢胞(水風船のような病変)で、ヒキガエル(ガマ)ののどにある袋のように見えることから命名されました。病変の嚢胞壁とそれを覆う粘膜は両者とも薄く、病変は容易に破綻し内部の粘液が流出します。上記の粘液嚢胞と同じ理由により、根本的には手術が必要です。この病変も再発しやすいので、再発する場合には、原因となっている舌下腺を摘出することが必要です。
右の下顎骨内に円形の透過像を認めます。嚢胞と言われる袋状の病変で、手術によって摘出する必要があります。病変部は本来あるべき骨が吸収されて消失していますので、下顎骨に強い外力が加わるとそこで骨折する可能性があります。摘出を行えば、半年から1年で骨が形成され、正常になります。
エプーリス
炎症によって反応性に増殖した歯周組織の限局性の腫瘤のことで、増殖性のある腫瘍とは区別されます。原因は不適合補綴物や義歯のクラスプなどの慢性刺激、歯周疾患の慢性の炎症性刺激などです。女性ホルモンの変調がその発生に影響する場合もあります。外科的に切除すれば治癒します。
頬粘膜に発生した良性の腫瘍(できもの)です。外科的に切除すれば1週間程度で治癒します。この腫瘍は、病理検査では線維組織が増殖したもので、義歯のために慢性的に粘膜がこすれて発生したものと考えられました。
舌の端に小さな暗紫色の病変を認めます。これは、血管腫と言われる毛細血管が増生してできた良性腫瘍です。ゆっくりとした発育を示しますが、ある程度大きくなった場合には切除が必要となります。レーザーによる焼灼術も有効です。
これはアフタ(口内炎)と似たような潰瘍性病変ですが、生検による病理組織検査(組織をわずかに採取し顕微鏡的に細胞を調べる検査)では癌でした。普通の潰瘍との鑑別が難しい症例ですが、わずかな見た目の違いから悪性の疑いを持ち、早期に検査を行うかどうかで患者さんの運命は変わってきます。この症例は癌としては超早期発見でしたので、簡単な手術で完治しました(おそらく患者さんには癌としての認識さえ生じなかったものと思われます)。口腔外科専門医はこのような症例の鑑別を正確に行います。
右第二大臼歯の舌側の歯肉が一部欠損しています。一見すると歯槽膿漏が悪化した病変のようにも思われますが、口腔外科専門医は悪性腫瘍を疑いました。生検による病理組織検査の結果はやはり癌でした。癌は発見が遅れると取り返しのつかないことになりますが、この症例は早期に発見されましたので簡単な手術で完全治癒しました。
初期の癌は痛みがないので放置されがちですが、何か月間か腫瘤が同じ部位に存在するとか、見た目が何となく悪いということになると癌を疑わなければなりません。歯肉癌の場合、その直下には顎骨が存在しますので、腫瘤だけではなく一部顎骨も切除する必要があります。この程度の大きさまでの癌であれば、簡単な手術で完全治癒します。しかし、これよりも進行した癌では、より大きな手術に加えて、化学療法や放射線療法も必要となるだけでなく、転移の心配も出てきますので、患者さんの負担と不安は急に増大します。癌は早期発見早期治療が命を救う第一の方法ですので、疑わしいと思ったならば口腔外科専門医を受診することが大切です。