市民新報コラム
糖尿病とお口の健康 (2007年7月)
糖尿病は、インスリンの不足により発病する代謝性の疾患です。インスリンは、ヒトの糖利用を促進するホルモンで、人の血糖量(血液中のブドウ糖濃度)を一定範囲内にコントロールする作用があります。このインスリンが不足することにより、肝臓で貯蔵多糖であるグリコーゲンの分解は促進され、グリコーゲンの合成は低下します。
糖尿病を発症すると、さまざまな症状が出現しますが、糖尿病の患者さんは、重度の歯周病に罹患しやすく、また、重度の歯周病は、さらに糖尿病やその合併症を悪化させてしまいます。
糖尿病の患者さんは、軽度の免疫不全状態となりますから、歯周病原菌やカンジタ菌に感染しやすくなりますし、糖尿病の悪化による高血糖の状態は白血球の中の好中球の機能を低下させるために、さらに細菌感染のリスクは高まってしまいます。
また、高血糖になると唾液の分泌量は少なくなってしまいます。唾液は、以前もこの欄で記述しましたが、お口の中を洗い流してくれ、免疫物質を含んだ非常に有用な体液です。その唾液の量が減ってしまうわけですから、当然、歯周病や口腔外科処置後の感染症にもなり易くなってしまいます。また、糖尿病は、毛細血管の障害や創傷の治癒不全を起こしますから、なおさら歯周病を悪化させてしまいます。
歯周病は、歯垢や歯石に存在する歯周病原菌による感染症ですが、その細菌感染は、体内のインスリンに影響を及ぼし、さらに血糖値を上昇させてしまう憎悪因子の一つです。また、糖尿病の合併症として、心疾患・脳梗塞・動脈硬化症がありますが、歯周病原菌はお口の中だけでなく、全身の血管の中に入り込み、血栓を作り、心筋梗塞、脳梗塞を惹起する一因になってしまいます。実際、歯周病の治療によって、糖尿病の患者さんの血糖値が改善された報告もなされています。
毎日のブラッシング、歯周病の改善を目的とした定期的な歯科健診・治療も全身的健康の回復の一助とご理解下さい。
(文責 東邦大学医学部客員講師 医学博士 簗瀬武史)
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