舌の表面はツルツルしているのではなく、糸状乳頭という上皮があり、そこに食べかすや口腔内細菌、白血球などの血液成分、口腔粘膜の剥がれた上皮などが堆積し、変色しているものを舌苔といいます。
唾液は一日800~1500㍉㍑分泌され、唾液自体の流れは口腔内細菌を洗い流したり、唾液中のムチンはお口の中の乾燥を防ぎ粘膜を保護して、食べ物を飲み込みやすくしてくれます。また、唾液中の蛋白質分解酵素や蛋白抗体は細菌を破壊してくれます。唾液は発がん性物質を無毒化するともいわれていますし、バロチンは若さを保つ作用があるといわれています。
このように唾液はお口の中で大切な役目をしてくれているわけですから、たくさん分泌されたほうが有効ですが、内科的な合併症や放射線治療で唾液の分泌量が低下している患者さんや免疫力の低下や全身状態が悪化している高齢者の方ほど、舌表面を被覆する舌苔の量は増えます。それに伴い、絶対的な口腔内細菌数は増え、舌の味覚障害、舌炎、口臭が増したり、誤嚥性肺炎や口腔カンジタ症を発症したりします。百害あって一利なしが舌苔です。胃ろうによる経管摂取を行っているご高齢者は咬みませんし、会口腔への刺激がないため、唾液の分泌量が少なくなり、お口の自浄作用は失われ、なおかつ舌苔は固まり、一度の除去では困難を極めます。
舌苔を除去する方法ですが、舌表面は複雑な形状であり、味を感じる味蕾(みらい)もあるため、舌苔を除去する際に舌を傷つけないようにしないといけません。そのために舌を乾燥させないようにして軟性素材のタングクリーナーや軟らかい歯ブラシや舌ブラシで丁寧に力をかけ過ぎないようにして舌の機械的清掃を行います。同時に洗口剤で除菌するのも有効です。前述のように舌を傷つけないようにして除去した後は舌の保湿や清掃に努め、抗精神薬などの副作用で唾液の分泌が低下している場合は唾液腺マッサージを行うことも有効です。
(文責(公社)日本口腔インプラント学会理事 医学博士 簗瀬武史)