「認知症800万人時代」ともいわれる現代の日本において、歯科医療が果たす役割に注目が集まっています。そこで私の進行のもと、認知症研究の第一人者本間昭先生と大久保日本歯科医師会会長が、認知症と歯科医療の関係などについて座談会を開催し、読売新聞に掲載しました。今月はその一部を抜粋いたします。
歯科医師は認知症患者の口腔ケアなどにも取り組んでいるのですが、日本における認知症医療の現状は2012年に出された厚生労働省の発表では、日本には認知症の方が約440万人、認知症の前段階といわれる軽度認知障害の方が380万人いるとされています。
認知症の原因として最も多いアルツハイマー病には治療薬があるのですが、ただ薬を出しておけば良いというわけではなく、認知症の人の暮らしをどういうふうにサポートしていくかが重要です。その中で忘れてはいけないもののひとつが口腔ケアで、これは認知症の進行にも関係する「食」の問題に直結しています。「食」の問題に関連することでいえば、日本歯科医師会は「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という「8020運動」を提唱しています。これは人間は歯が20本以下になると、急速に食べる力が失われていくということが分かっているからです。「食べる」という行為は、栄養摂取としてだけでなく、人と一緒に食べる楽しさ、幸せももたらします。また「話す」ということもコミュニケーションの手段として非常に重要ですので「食」と「会話」という口が持つ2つの機能を維持していくことが歯科医師の仕事だと考えています。虫歯や歯周病の処置は手段であって、その人の生きる力を支えること、患者さんが生活の中で噛める幸せを味わうこと、健康を維持することこそが目的なのです。 〝生活〟を意識して患者さんと向き合うことは大変重要です。医科、歯科を問わず、認知症の人と向き合う時には「生活」というキーワードを常に考えておくことが重要なのです。
(文責:神奈川歯科大学客員教授 医学博士 簗瀬 武史)