患者さんがインプラント治療を希望された場合、まず我々歯科医師が検査するのはパノラマエックス線写真により、歯槽骨頂から上顎洞底までや歯槽骨頂から下歯槽管(下顎骨の中の動脈・神経が走行している管)までの垂直的な骨量の検査を行います。骨がやせて垂直的骨量(骨の高さ)が十分でない場合は骨移植や骨補填材による骨の造成を行わなければなりません。
また、造成で骨の量を増やすのが不可能な場合は取り外しの入れ歯や天然歯を土台にしたブリッジを選択せざるを得ません。また、骨の造成は、骨が強固になるまで時間もかかり、治療時間は通常より長くなります。 次に顎頭頸部用CTスキャンによる撮影を行ない骨の幅や上顎洞や下歯槽管の位置関係を三次元的に診断します。パノラマエックス線写真は二次元的な通常のレントゲン写真ですが、顎頭頸部用CTスキャンで撮影したX線写真は三次元ですから顎を立体的に診断することができます。必要な骨量が十分あっても、インプラント植立にはある程度の硬さがある質のよい骨でなければいけません。
骨は外側の固い骨の皮質骨で覆われ、内部は柔らかい海綿骨からできています。インプラントはこの皮質骨に支えられており、皮質骨が厚いほど、インプラントの予後は良いと推測されています。一般に海綿骨は内部の血管が太くてより多くの走行があれば、骨のリモデリング(骨の細胞の入れ替わり)も活性化されていいのですが、なかには、海綿骨が疎で、中がスカスカの場合もあります。このような症例では使用するインプラントや術式の選択が重要になります。また、インプラントが十分に骨と生着するまでの治癒期間を通常の骨に比べて長くします。下顎は皮質骨が厚くほとんど問題がありませんが、上顎は皮質骨が非常にうすく、ほとんどが海綿骨ですから、骨質の個体差が大きいのです。
いずれにしましても骨の骨量・質量の精査は成功するためのインプラント治療には不可欠なファクターです。
(文責 (社)日本口腔インプラント学会 理事・指導医 医学博士 簗瀬武史)