市民新報コラム

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「治る歯」「治らない歯」 (2008年5月)

我々、歯科医は朝から晩まで患者さんに嫌がられながら、予防から治療まで行っています。一般的に歯科医は虫歯の治療が仕事と思われがちですが、実際の守備範囲は広く、上顎洞、顎関節、下顎骨、舌、歯周組織、歯を含み、それに加え患者さんの全身状態を把握する医学的な知識がないと現在の歯科治療はなりたちません。

もちろん患者さんに「話す・笑う・食べる」を味わっていただくために治療を行いますが、残念ながら「治る歯」と「治らない歯」があります。「治らない歯」とはどういう歯でしょう? 残念ながら、必要性があって加療するのですが、歯は削ったり、神経を抜いたりした時点で、「抜歯」への一歩を歩み始めます。その歩みを止めたり、ゆっくりした歩みにして、なるべく一生、患者さんの口腔内で機能させるように努力するのですが、治療前の状態が歯牙保存の境界線上であったり、治療した後にブラキシズム(食いしばり・歯ぎしり)の強い力に起因する歯牙の破折が生じたり、感染した病巣の再発や2次的な虫歯になった場合、再治療や時には抜歯しなければなります。また、我々にとって診断が重要ですが、健康保険内のレントゲン写真には、根分岐部病変など病巣の位置によっては写らない症例もあります。頭頚部用CTスキャンを撮れば診断できますが、これは健康保険外のレントゲン撮影になり、CTスキャンを使用して診断した場合、その後の治療が健康保険で行えないなどの矛盾した社会保険制度のため、一般的な臨床には使用できません。私の診療室のCTスキャン使用も制限があり、「診断のための眼」が十分でないことを悔しく思っています。

「治らない歯」が歯科治療に起因するものだけではなく、治療前の状態、加齢、自然の摂理、異物排除、免疫、そしてレントゲン撮影の制約など社会保険制度の矛盾など様々な要因があります。また、日々のお手入れの不十分、定期検診を何年も受診しないことなども予後不良の原因となります。

 

(文責 (社)日本歯科先端技術研究所 会長・医学博士 簗瀬武史)

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