市民新報コラム

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がん患者さんの口腔ケア(2010年11月)

日本歯科医師会と国立がん研究センターではがん患者さんのための医科・歯科連携事業を開始しました。これは患者さんのために国立がん研究センターと日本歯科医師会(関東4県および山梨県)会員の歯科医療機関との地域医療連携システムです。
埼玉県歯科医師会においても先日、講習会が開催されました。現在、国立がん研究センターにて全身麻酔手術を受ける患者さんは年間4000名ですが、今後は各地のがん拠点病院においても地域の歯科医療機関との連携を構築していく事業です。

がんの治療になぜ口腔ケアが必要なの?と思われる皆さんもいらっしゃるかもしれませんが、治療前の口腔内診査とケアは大切です。手術は全身麻酔下で行われるのが大半ですが、口腔内が不潔ですと、手術後に口腔内細菌が原因で嚥下性肺炎を併発しやすくなります。これは術中や直後、お口を開けたままの状態での気管内挿管や咽頭の反射も低下するため、細菌やお口の汚れが唾液とともに肺に流入するために起こってしまいます。また、手術創部の感染や化学療法中は体力や免疫力も低下するため、感染症のリスクも高くなります。また、術後はご自分で咬む・食べるお食事ではなく、体への管を利用した経管栄養が中心になりますが、長期間に及ぶと善玉の腸内細菌が減ってしまい、感染症のリスクが高まる場合もあります。なるべく早く体力を戻すためにもご自分で摂食嚥下をして栄養をとり、体力を回復されるのが一番です。

ご病気の診断をされた直後は今後の治療への不安感も大変感じることと思います。なかなかお口のことまで考えられないかもしれませんが、よりよい治療成果のためにもかかりつけの歯科医院で口腔内診査を受診され、スケーリング(歯石の除去)や口腔清掃指導、またぐらつく歯や虫歯の治療、入れ歯の修理や清掃指導を受けてください。また、退院後も定期的なお口の管理を行って、「おいしい食事という一番のお薬」を摂るようになさってください。


(文責:神奈川歯科大学客員教授 医学博士 簗瀬武史)

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