口腔インプラント治療は「20世紀最大の歯科界の発明」と言われています。たまたま、整形外科医が動物で骨折の研究をやっていた時にステンレス製でなく、チタン製の器具で固定していたところチタンのねじが結合して外れなくなり、骨とチタンが結合することがわかり、歯科治療に臨床応用されました。古くはインカ帝国の時代にも顎の骨に天然石から作った歯を埋め込み代用させることも試みられたことが考古学で検証されています。
この発明は「咬めない」「食べられない」ことで悩んでいた人々への朗報となりました。日本では1980年から90年代にかけては、一部の歯科医しか手がけず、歯科界でも口腔インプラント医は歌舞伎物あつかいをされている時代もありました。しかし、材料学の進歩によりインプラント治療の予知性は高まり、術式も簡便かつ規格化され多くの歯科医師が手がけるようになりました。現在では医療安全のルールを遵守すれば、インプラント治療は安全かつ有効な歯科治療のひとつと言えます。
しかしながら、多くの歯科医師が手がけるようになり、インプラント治療の基本的な教育を受けないで手がけたり、設備が不十分なままでの施術も散見されます。また、本来、歯科治療は「一口腔単位の治療」「モノをお口の中にセットすることでなく、咀嚼機能の再建・維持」そして基本的には「天然歯の保存」を目的としています。ところが、近年、インプラント治療を目的とした派手なインターネットでの集患や派手な看板広告、初診時の診断からしつこくインプラント治療へ誘導するような医療面接への苦情なども耳にします。
歯科治療は「過去・現在・そして未来(予後)」を的確に判断して診療計画を立てる複雑な治療ですから時には天然歯を抜歯してインプラントに代替したほうが好ましい症例もあります。もし、インプラント治療で理解できないことや不信感があれば、躊躇することなくセカンドオピニオンを求めることをお奨めします。
(文責 日本口腔インプラント学会理事・指導医 簗瀬 武史)