市民新報コラム

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二人のTさん(2005年03月)

開業して17年もたちますと多くの患者さんとの出会いや別れを経験します。今月は二人のTさんとのお別れでした。整形外科医であるT先生とは開業以来、お互いに主治医の関係でした。数年前より病魔と闘われておりましたが、今月、お亡くなりになられました。言葉数の少ない先生でしたが、先生は診療中の会話を通じて多くのことを教えて下さいました。

以前、私の友人が先天性股関節症で悩んでおり、その相談を受けていた時、T先生は「例えば、人間の指は大半の人が10本であるから、そうなっているが、11本あってもそれはその人にとっては正常である。手術を行い治すことも大切ではあるが、その方が持って生まれた体や機能をそのままの形で大切にすることも重要である」とおっしゃいました。
この言葉を伺った時、私の思う障害への概念や機能回復や治療というものへの畏怖の念、医療の限界を知り、施術を行なわねばならない大切さを再認識させられました。最期は御自宅にお戻りになり、意識混濁の中でも、御家族を通じてお言葉を届けてくださいました。先生のお持ちになった医の倫理観・その崇高さへは尊敬の念を感じざるを得ません。運命とはいうものの未だ、納得できない日々が続いています。

もうお一人のTさんも御夫婦で長いお付き合いをさせていただきました。ご夫婦共に大変温厚な方で、まさに理想的な御夫婦です。お仕事をおやめになってからは趣味を大事にされていましたが、故郷である信州松本に帰郷されることとなりました。先日も挨拶に立ち寄ってくださり、松本での再会をお約束しました。診療中、スタッフに思わず注意を・・・という場面でも奥様の温厚さに触れているとこちらまで温厚にさせられてしまうほどでした。暫くはお会いできないと思うと、また一抹の寂しさを覚えてしまいます。

歯科は医科と異なり、患者さんとの関係も希薄になりがちですが、患者さんから我々、歯科医療人が感じ、学ぶことも多い毎日です。

 

(文責 医学博士 簗瀬武史)

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