市民新報コラム

市民新報コラム

「抜歯」の基準 (2009年10月)

「歯医者で歯を抜かれた」「歯を抜かれたけれどほんとに必要だったのか?」というような気持ちを感じたご経験がおありかもしれません。我々、歯科医も患者さんの大切な歯を抜く「抜歯」という治療行為は慎重になります。もちろん、歯を抜かないですめばいいのですが、治療を行っても、被せることができない歯やすぐに再発して痛みがでてしまうような歯は抜歯の対象となります。また、痛みがなくても無理に萌出してきて歯列を乱したり、ななめに萌出して第2大臼歯との間が不潔になり、歯周病や虫歯の原因になってしまうような親知らず(第3大臼歯)は抜歯します。

昔は歯科治療において抜歯は当たり前の治療でしたが、近年、歯科医学が進歩し、また日本歯科医師会が提唱する8020運動(80歳で20本の歯を残し、ご自分の歯で咬む)により、歯科治療の必要性も啓発され、ずいぶん、抜歯の本数は少なくなりました。ただし、治療方法の多様化により、「抜歯の基準」は変わってきました。特にインプラント(人工歯根療法)治療の場合、一口腔単位で治療計画をたて、また数年先の口腔内の状況を考慮するために、歯槽骨が残っているうちに抜歯をしてインプラントに置き換える場合もあります。つまり、「現在の歯の状況」と「今後どのような治療を行うか?」ということでそれぞれの患者さんの「抜歯の基準」が若干異なってくるわけです。ただ、最近、インプラントを行う歯科医の抜歯の基準が低下している傾向にあります。本来、歯科医の本分は「歯を残す」ことであり、歯はどのくらいの強さで咬んでいるかを測定する「歯は大切な感覚器官」です。また、インプラント治療は患者さんが「咬む喜びを得るための選択肢の一つ」に過ぎません。ましてインプラント治療を「目的」とするような歯科治療を行うべきでないと思っています。ご自身の「抜歯」に疑問を感じたら、セカンドオピニオンを得るなりし、納得することが大切です。

 

(文責:(社)日本口腔インプラント学会 理事・指導医、神奈川歯科大学客員教授 医学博士 簗瀬武史)

2022年

2021年

2020年

謹賀新年with Corona

2019年

2018年

2017年

2016年

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年

2004年

2003年

2002年

2001年

2000年

1999年

市民新報記事一覧にもどる

上にもどる